仕事が忙しかった分の反動かもしれない。
ついついお土産を買い過ぎてしまった。
九州でしか味わえない食べものたち。
食べきるまで、ちょっと時間が掛かるはずだ。
ご近所さんに配ろうか。それとも、コレを口実にして、
ひさしぶりに実家に帰ろうか。
荷物は重くなったけど、仕事のモヤモヤはキレイに消えた。
「お兄ちゃんなんだからしっかりね」
10年前、弟と二人で飛行機に乗って祖父母の家に
遊びに行く時に、母から言われた言葉を思い出した。
いま考えればただ飛行機に乗るだけなのに、
大冒険にでるような心持ちでとてもとても緊張していた。
あの時、優しくしてくれたキャビンアテンダントの
方の顔を今でも鮮明に覚えている。
あれから十年が経ち、
僕の隣には弟ではなく彼女が座っている。
大きくはなったけど、緊張はあまり変わっていない。
彼女の横顔は、あの人に少し似ている。
東京から九州への出張なのに
日帰りということも多くなってきた。
効率が良くなった分、体と心が休まる時間は減った。
せめて、移動中くらいゆっくりしたいと思い
スターフライヤーを予約した。
レザーシート、普通の航空機よりもシートの間隔も広い。
足を延ばし、リクライニングをし、体を沈める。
ヘッドレストを動かして、自分好みのポジションを探る。
意外とこれが調節できることは知られていないようだ。
USBポートにスマートフォンをつなぐ。
たぶん、東京に着く頃には
体力も電池も回復しているだろう。
出張も数を重ねると不思議なもので、
「行く」から「帰る」といった気持ちになる。
いくつか行きつけのお店もできた。
もう地名を言われて?が頭に浮かぶことはない。
今晩はどこのお店に行こうかと
移動中に考えるのがルーティンになっている。
機内誌に載っていた
おすすめの北九州のお店をチェックする。
まだ行ったことのないお店ばかり。
今の私の目標は訪れるたびに
「お帰りなさい」と言ってくれる
お店をつくることだ。
空港にはさまざまな人が集う。
そして、さまざまな理由で人は旅立つ。
異なる目的をもったそれぞれの人たちが
同じ飛行機に乗り込み旅立つ。
大きな夢。まだ見ぬ何かへの期待。
人と荷物以外のたくさんの何かが、
この機内に詰まっている。
今まで何百万人もの人が、
何かを持って飛び立って行ったのだ。
私にあるのは夢か?期待か?
そんなことを、離陸前の今、考えている。
当たり前なのかもしれないが、不思議に思う。
つい2時間前には東京にいたのに、
もう北九州で商談をしている自分に。
ちょっと未来へワープしたような感覚。
この変な感じが好きで、
飛行機での移動を選ぶことが多い。
ただ一つだけ過去には遡れないのが
ちょっと残念ではあるけれど…。